episode:独自の技術によるニッチでシャープな製品開発

ヤグチ電子工業株式会社

放射線量計「ポケットガイガー」、斜視・弱視訓練機器「オクルパッド」など
様々なお客様のニーズに対応した製品開発を行う。

設立の経緯を教えてください。

1974年(昭和49年)4月に、神奈川県の相模原市上鶴間(かみつるま)に会社を設立しました。ここの地区名称の「矢口」をとって、『ヤグチ電子工業株式会社』と名付けました。
元々、大手AV機器メーカーのラジカセを主体に生産していたのですが、赤外線コードレス音響機器生産増強の為、1990年(平成2年)2月に宮城県河南町(現石巻市)に工場を建てました。本当は中国に工場を作る予定だったのですが、天安門事件が起きてしまってその計画が中止となり、前社長の実家のすぐ近くだった河南町に建てたといういきさつがあります。それで、最終的にはお取引先の大手メーカーが海外展開したという事もあり、2009年(平成21年)に相模原市の本社を閉じ、今の場所に本社を構えました。しかし、リーマンショックの影響などで仕事量が相当減少、そこに追い打ちをかけるように大震災が来たものですから、このままではまずいと、2011年(平成23年)から自社製品の開発を始めました。

「ポケットガイガー」開発のきっかけは?

当社は津波の影響はありませんでしたが、4週間後あたりから、他の会社の技術系の方が心配して来てくれたんです。その人達と喋っているうちに「放射線量計が今無いから作って欲しい」という話が出たんですよ。みんなでコピー用紙の裏側にパーっと設計図を書いていったら、いつの間にか図面が出来てしまい、それを基に次の週には試作し、たったの2週間で完成させました。ただ、放射線の測定値が合ってるかを校正する必要があるので、校正をしてくれる所を募集する為に『Radiation-Watchプロジェクト』を立ち上げ、ホームページを作ってアプローチをしたんですね。その結果、オランダ国防省の方がメールで引き受けオランダの専門機関が校正をしてくださる事になり、しかも「良い商品なので早く商品化するべきだ」というお墨付きをいただいたんですよ。しかし私達も震災直後で、目先の資金調達などで悩んでいた時だったので、クラウドファンディング(インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うこと)に応募しまして、2週間位で善意の投資が150万円ほど集まって、それを基に急いで部品を買い商品を組み上げて、2011年(平成23年)8月1日に販売を開始しました。夜中の0時に販売サイトをオープンさせた所、用意していた200台があっという間に30分で売り切れまして、慌ててお金をかき集めて、今度は500台作って再び販売したら、それも1日で完売。自転車操業のように製造・販売をしまして、結果5万台は売れました。現在も販売しています。『プロジェクト』のFacebookページを通して、製品を使ったお客様から寄せられた放射線についての質問に自分達で全部答えていたのですが、せっせと質問に答えているうちに、大学の先生や研究機関の職員など、私達の代わりに答えてくれる専門家が自然と集まってきて、質問への回答だけではなく、製品へのアドバイスまでしていただいて、それを基に改良を重ねて、更に良い製品を製作している所です。また、スマートフォンに繋いで使用するという特性を生かし、お客様が測定したデータを、GPSでマッピング出来るようにしたんです。それが、現在では累計500万箇所を超えるビックデータになりました。
当社は、「オープンでフェアーな企業活動」を基本理念にしています。この製品の開発実験データ、設計図や外部接続資料といった技術資料も全てオープンにしています。当社の固有技術を欲しがっているお客様とうまくマッチさせて開発したものは必ず商品化して売ります、というのが信条なんです。ですから、「ポケットガイガー」の開発によって今の会社の形が出来たようなものですね。

「オクルパッド」の開発のきっかけは?

「オクルパッド(Occlu-Pad)」という商品名は、「Occlusion(閉鎖・閉塞)」という言葉が語源です。お医者さんが名前を聞いた瞬間になんとなく用途が分かっていただけるようなネーミングにしました。商品は、改造したタブレット、特殊なメガネ、それにタンジブル・ブロックの3つの部品で構成されています。そもそも、「ホワイトスクリーン」という特殊なメガネをかけることによって、タブレットやテレビに映った映像を見る事ができるという当社の商材がありまして、セキュリティ用途を目指して2011年(平成23年)から開発を進めていたんですけれども、とりあえずデジタルサイネージ(※)の分野にぶつけてみたんです。そうしたら、2012年(平成24年)のフィリップモリスをスタートに、ルイヴィトンや資生堂、キリン、蔦屋書店、NHKといろんなサイネージに使っていただけるようになりました。何が良かったかというと、サイネージで初めて画像を隠したんです。なので、「なんだろう?」と興味を持ったお客さんが寄ってくるんですよ。特殊なメガネをかけた人にだけ商品の映像が見えるという事で、購買効果には非常に良い取組と評価していただきました。2013年(平成25年)9月には、ルイヴィトンの展示会を訪れていた北里大学の半田和也先生から、その会場から「共同研究しよう」と連絡をいただきまして(笑)、それがきっかけで、開発がスタートし、1年半で商品化しました。それが、小児弱視・斜視訓練機器の「オクルパッド」です。

小児弱視は、成長過程で子どもの大体2~3%が発症する病気です。メカニズムとすれば、成長途中で視力差が起きた時に、脳が勝手に悪い方の画像をシャットアウトしてしまうんですよ。そうすると、使われない眼はどんどん視力が下がってきてしまうのです。そのうち一部の子には、眼球が内側や外側、あるいは上や下に向いてしまう斜視という病気が発症する場合もあります。今までは、健眼(良い方の目)に専用の絆創膏を貼る訓練法が、300年以上前から採用されてきました。健眼に貼る事により、悪い方の目で見る環境ができ、視力を回復させるという仕組みです。しかし、訓練期間は1年~1年半と長く、隠している健眼の方も弱視化してしまう恐れがあるといった数々の問題がありました。

「オクルパッド」は、ホワイトスクリーン技術により、両眼視を保ったまま周辺視野と手の動きを確認することができ、同時に訓練眼だけに映像刺激を与える事ができる機器です。タブレットで簡単なゲームをする事により、家で気軽に楽しみながら訓練が出来るんです。何時間訓練をしたのかログが残るので、通院先のお医者さんがグラフで確認することが出来ます。ただ、3歳以下のお子さんだと、指が細くてタブレットが反応しないので、指代わりに「タンジブル・ブロック」を使うことにしました。臨床試験の結果、小児弱視が2~3ヵ月で改善される例が多くみられています。実際に製品を使っていただいて、患者であるお子さんはもちろん、お子さんのご家族の笑顔が見る事が出来た時は、本当にこの製品を開発して良かったなと心から思いましたね。今後は、さらに多くのお医者さんに認知していただけるようにしていきたいですね。来年度は、本格的に海外展開を進めようと思っています。まずは、アメリカ・ヨーロッパあたりからアプローチしていく予定です。
※デジタルサイネージ…表示と通信にデジタル技術を活用して平面ディスプレイやプロジェクタなどによって映像や情報を表示する広告媒体。

今後行なっていきたい事を教えてください。

元々は他社から受注したものを製造するのがメインの会社なので、自社製品の開発を通じて、「こんなこともやっているおもしろい会社なんだよ」という営業活動に繋がればいいと思いますし、自社製品の開発に関しては、これまで通り「オープンでフェアな企業活動」という基本理念を大切に、ニッチでシャープな開発を進めていきたいですね。

20年後、どのような会社になっていると思いますか?

このままのスタンスを続けていきたいです。今、会社としては相当前向きに進んでいますので、そのまま、ずーっと前向きで続けていけたらいいですよね。

ビズプロ・クロスをご覧になっている皆様へ

当社は、非常にニッチな市場でも真摯に対応いたしますし、開発の中でお付き合いさせていただいてきた大学の先生など様々な知見を持った方のバックアップにより、より良い商品が出来る環境にありますので、個人だからとか小さい会社だからとか、どうせ売れないからとかではなく、積極的にお問い合わせいただければと思います。まずはやってみないと、何が起きるかはわからないので。

ヤグチ電子工業株式会社
〒986-1111 宮城県石巻市鹿又字嘉右衛門301
TEL:0225-75-2106(代表) FAX:0225-75-2071
HP:http://www.yaguchidenshi.jp/